| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-142 (Poster presentation)

海藻の呼吸に起因する二枚貝アサリの季節的な死亡

*宮本 康(鳥取県・衛環研), 畠山恵介(鳥取県・衛環研),山田勝雅(水総研),浜口昌巳(水総研)

富栄養化が進行した1970年代以降、海洋沿岸域では海藻の大量発生が頻発化し、社会問題化している。大量発生した海藻は沿岸生態系の酸素動態を支配し、夜間は暗呼吸による酸素消費により貧酸素化を引き起こす事例が報告されている。また、沿岸生態系の貧酸素化はベントスの斃死と結びつくことが多いことから、海藻の大量発生域ではベントス個体群の密度低下が生じている可能性が考えられる。そこで本研究は、海藻の大量発生が沿岸生態系の貧酸素化を生じさせること、その結果としてアサリの斃死が生じることを、海藻の大量発生が問題化している中海を対象に明らかにすることを目的とした。海藻の有無を操作した野外実験の結果、海藻は昼間に沿岸水域の溶存酸素量(DO)を増加させる反面、夜間のDOを低下させること、海藻による夜間のDO低下効果には非線形な水温依存性があり、水温が25℃以上になると貧酸素状態の継続時間が急激に増加することが明らかになった。この結果から、海藻の繁茂域では夏季にベントスの斃死が生じることが予想されるが、野外調査の結果はこの予想を支持するものであった。野外で海藻が繁茂する7~9月にアサリの著しい密度低下が全ての調査地点で確認された。加えて、海藻の有無を操作した野外実験においても、夏季にのみ海藻区での斃死現象が認められ、さらに貧酸素化を示す強還元状態と硫化水素の発生が確認された。以上の結果は、大量発生した海藻が沿岸生態系のDO動態を季節的に支配し、その結果、ベントスの季節的な死亡を生み出すことを示している。過去10年間に中海の夏季水温は約2.5℃上昇した。海藻下における貧酸素の継続時間が水温上昇に応じて非線形に増加する傾向を考慮すると、沿岸域におけるベントスの夏季の斃死リスクは、海藻の発生量が一定だと仮定しても、近年高まっていると考えられる。


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