| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-198 (Poster presentation)

富士山森林限界のカラマツ-シラビソ移行林におけるシラビソの更新について

*白土和磨,山村靖雄(茨城大・理),田中厚志(日林協),中野隆志(山梨環境研)

富士山森林限界下部のカラマツ-シラビソ林はカラマツ林からシラビソ林への遷移途上の森林であり、時折生じる雪崩による林床撹乱は、遷移の進行を妨げると考えられる。林床撹乱が遷移に与える効果を明らかにするために、雪崩道に近く過去に林床撹乱を受けた林分(雪崩あり区)と雪崩の影響のない林分(雪崩なし区)に斜面方向に長い帯状調査区を設置し、シラビソとカラマツの12年間の動態を調査した。雪崩あり区(110m×20m)では2000・2006・2012年に、雪崩なし区(100m×20m)では2001・2013年に調査を行った。調査区内の成木、稚樹、実生にマークをつけ、位置・樹高・地際直径・胸高直径・樹齢を測定した。2013年には両区で林床の光環境と微地形を測定した。

12年間で両区のシラビソは増加し、カラマツは減少した。シラビソは斜面上部へ侵入し、その侵入速度は「雪崩なし区」より「雪崩あり区」で大きいことがわかった。また、シラビソの成長速度は「雪崩なし区」より「雪崩あり区」で大きかった。林床の相対光強度は「雪崩あり区」の方が大きく、成長速度と光環境には正の相関があった。

以上より、雪崩による土砂流入は遷移を停滞させるが、その後のシラビソの侵入速度は高いことが示唆された。これは、雪崩による土砂の流入が林床の低木やシラビソの若木を全て排除するが、一方で光環境の改善を導き、競争相手の不在と共にその後のシラビソの侵入を容易にしているためと考えられる。しかし、「雪崩あり区」では近年のニホンジカによる食害が無視できない遷移の阻害要因となっている。


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