| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-204 (Poster presentation)

冷温帯針広混交林において母樹からの距離および上層木樹冠がブナ実生の定着に与える影響

*國永知裕,平山貴美子,高原光(京府大院・生命環境)

上層木は下層の環境を様々に改変し,後継樹の更新に対し正負双方に影響する。こうした樹冠−下層相互作用は,森林の構造を決定する重要な要因の一つである。これまでブナ優占林では,ブナが種子や実生期に受ける病原菌や捕食者による距離・密度依存的な死亡の重要性が指摘されてきた。日本海側山地帯では,ブナとスギとの混交林が断続的に認められるが,こうした混交林の維持に対し上層木はどのように影響するのだろうか?

本研究では京都大学芦生研究林のスギ・落葉広葉樹混交林において,上層の樹冠構造や成木からの距離がブナ実生の定着に及ぼす影響の解明を目的に,スギ優占林内に単木的に分布するブナ成木からスギ樹冠下に設けたトランセクト(n=6,長さ9-13m)上の調査区(1㎡,n=38)に発生したブナ実生の生残を2年間追跡した。

ブナ実生は,2012年5月までに695個体が発生し,112個体が同年11月まで,74個体が2013 年11月まで生存した。Kaplan-Meier法による生存曲線推定の結果,成木からの距離別では,中・遠距離(4-7m・8m以上)と近距離(0-3m)の生存曲線間に有意差が認められ(P < 0.05,log-rank検定),生存率は殆どの期間で近距離において最も低く,樹冠別ではスギよりブナの樹冠下で低かった。Cox比例ハザードモデルによる解析の結果,生存期間と距離の間に線形関係があり,中距離でのハザード比が最も低かった。また,一般化線形混合モデルによる解析の結果,捕食者による胚軸への被害個体数は成木からの距離,ブナ樹冠とそれぞれ負,正の強い相関を示し,実生密度や光環境とは相関がなかった。以上より,捕食者によるブナ樹冠下でのブナ実生への加害が距離依存的な死亡をもたらすと考えられた。樹冠構造の異質性がブナの更新,ひいては混交林の維持に貢献している可能性がある。


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