| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-124 (Poster presentation)

フタモンアシナガバチ女王は巣への接近者に応じて防衛反応を調節する

古市生,粕谷英一(九大・生態)

巣をつくりそこで子の世話を行う動物にとって、巣への捕食は繁殖失敗をもたらす主な原因である。そのためそのような動物の多くで、巣への捕食を防ぐために親が巣に近づく動物に対して防衛反応をとることが見られる。

巣への接近者に対する防衛反応としては、接近者と対面している最中の撃退行動だけでなく、接近者が去った後の巣の防衛の強化もある。巣への接近者に対し、これら防衛反応をとることで、巣が捕食される確率を低下させることができる。一方、撃退行動には、親自身が負傷するリスクやエネルギーの消費、巣の防衛強化には他の行動に使える時間の減少といったコストが伴う。そのため親は、巣への接近者に無差別に反応するのではなく、“通りすがり”にはあまり反応せず、巣への捕食の危険のある動物には撃退行動をとり巣の防衛を強化すると予測される。

本研究では、フタモンアシナガバチ女王を用い、親は巣への接近者に応じて撃退行動とその後の巣の防衛強化の両方の反応を調節しているか検証した。フタモンアシナガバチの女王は、春に冬眠から目覚め、1頭で巣作り子育てを開始する。そのためこの時期は、女王自身が餌や巣材などを採集するために巣を離れる必要がある。しかし巣を留守にしていると、同種他巣の女王に巣にいる子が捕食されることがある。

本研究では、巣への捕食者である同種個体と捕食の危険のない昆虫3種(ヒメヒラタアブ・ベニシジミ・キムネクマバチ)を実験的に接近させ、女王の防衛反応を観察した。その結果、女王は捕食の危険のない昆虫の接近に対し、撃退行動(飛び掛かる行動)をとることはほとんどなく、その後ガード時間(在巣時間)を増加させることもなかった。一方、同種の接近に対しては、高い割合で撃退行動をとり、その後ガード時間を増加させていた。以上の結果は、女王は巣の接近者に応じて、撃退行動とその後の防衛強化の両方の反応を調節していることを示唆している。


日本生態学会