| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-183 (Poster presentation)

個体数密度がヤクシカ個体群に与える影響

*黒岩亜梨花(九大・生態),三村真紀子(玉川大・農),寺田千里(北大・FSC),田川哲(屋久島自然保護官事務所),黒江美紗子,新田梢,布施健吾,斉藤俊浩,矢原徹一(九大・生態)

世界自然遺産登録地の屋久島では、ヤクシカ(Cervus nippon yakushimae)の増加により、固有種や絶滅危惧種を含む植物種の減少、林床植物の消失とそれに伴う土壌流出、農作物の食害などが発生している。被害対策として駆除による個体数管理が行われているが、推定個体数は16015頭(H20-21)から18677頭(H24)に増加している。管理を成功させるには、ヤクシカが増加しやすい場所や高密度下でなお増加できる理由を解明する必要がある。そこで本研究は、増殖率に影響する個体の栄養状態を調べ、栄養状態に影響する環境要因を明らかにした。

屋久島でヤクシカ生息密度が異なる5ヵ所(7.1-92.5/km2)から、合計76個体を回収した。栄養状態の把握には、個体の脂肪蓄積量を指標するライニー式腎脂肪指数(RKFI)を用いた。RKFIに影響する要因を明らかにするため、対象個体の性別、胃内容物の量、タンパク質含有率および落ち葉の割合(餌の質の指標)、捕獲地点のシカ密度、標高、行動圏の平均傾斜角を調べ、GLMを用いた解析を行った。

ヤクシカのRKFI平均値は、5地域すべてで20%以上となった。高密度化に伴う大きなRKFI値の低下は見られず、同程度の密度の地域でもRKFIにはばらつきが見られた。栄養状態は、傾斜が急になるほど低く、胃内容物の量が多いほど高くなり、季節や餌の質は影響していなかった。いずれの地域でも栄養状態は良好なため、増加の余地があると思われるが、特に栄養状態の高い地域は増殖率が高く管理を優先すべきと考えられる。今後、DNA分析を用いた食性解析を行い、高密度下のシカが利用している植物種を明らかにする。


日本生態学会