| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-043 (Poster presentation)

ダム湖は湖か?魚類の食物網解析による検証

*福島路生(国環研), 広木幹也(国環研), Tuantong Jutagate (ウボンラチャタニ大)

インドシナ半島を流れるメコン川では、世界最大の漁業生産(260万トン/年)が流域にすむ数千万人の食と生計を支えている。急速に進むダム開発は、漁業に甚大な影響を及ぼすが、一方で、新たに生み出される生態系-巨大で水深の浅い、適度に富栄養なダム湖-での養殖による漁業生産は、失われる漁業生産を埋め合わせるという主張も聞かれる。その真意を明らかにするため、メコン流域のダム貯水池と自然湖沼トンレサップの食物網構造を比較した。ラオスとタイの5つのダム貯水池、またカンボジアのトンレサップ湖から食性の異なる複数種の淡水魚類を採取し、筋肉組織の炭素窒素安定同位体比を測定した。貯水池では、食性から推定した栄養段階が、窒素安定同位体比の大小とよく一致し、肉食性の高い魚種ほどδ15Nが高く、また種内(個体間)でのδ13Cのバラつきが次第に小さくなり、全体としてピラミッドの形をした食物網構造を呈した。一方のトンレサップ湖の食物網では、種ごとの食性タイプがδ15Nの大小と一致せず、δ15Nがきわめて低い(< 10‰)肉食魚が存在した。またδ13Cの変動幅も大きく、高次の栄養段階に向けてそれが収束することはなかった。トンレサップ湖の食物網構造はきわめて複雑で、同位体比の異なる複数の生産者を起源とする食物連鎖があることが示唆された。ダム貯水池の生態系は、主に藻類により生産された自生性の有機物を起源とする単純な構造を持ち、自然湖沼と同等の漁業生産(=生態系サービス)を期待することは難しい。


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