| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-044 (Poster presentation)

海草藻場のパッチ状分布が小型無脊椎動物の機能群多様性の空間異質性を促進する:機能群構造決定機構における環境と空間の相対的重要性

*山田勝雅(水研セ・西海区), 田中義幸(JAMSTEC・むつ),仲岡雅裕(北大・フィールド科学)

生物多様性の維持機構や群集構造決定機構の解明における生息地の環境(環境異質性)と空間構造の影響の相対重要性の定量的な評価は現在も議論の最中にある.これまでの研究で,分散能力や生態的機能(例えば,環境に対する応答)が根本的に異なり,生物間の相互作用も独立であると想定された高次分類群別の評価が行われ(例えば,「魚類」や「甲殻類」など),多くの研究で空間構造よりも環境異質性がより重要な役割を果たすことが支持されてきた.しかし,生態的機能が類似する種や競争関係にある種が高次分類群間を超えて含まれる場合もあり(収斂),高次分類群を超えて生物群集を捉えた場合の群集構造決定機構の評価の必要性が言及されている.

本研究は,沿岸域にパッチ状に形成される海草藻場(三陸沿岸)に注目し,海草藻場を棲家とする小型無脊椎動物群集を対象に,それらの機能群の群集構造決定機構における環境と空間の影響の相対重要性を定量的に評価した.機能群は,各種の分散能力と生息場選択の違いを基にし,高次分類群を超えた再分類により構築した.

機能群の多くは従来の報告にあるように環境プロセスによって決定されていたが,空間プロセスのみが重要な役割を果たすという,これまでにあまり報告例のない特異な(機能)群も動物群集内に含まれていた.このことは,異質な環境に海草藻場が形成されることだけでなく,同等の環境であっても空間的に異なる場所に海草藻場が形成されるだけで,特定の機能を持った群が蝟集する場合があることを示唆している.海草藻場が沿岸域にパッチ状に形成しているというだけで,動物群集の機能群多様性が高められているのかもしれない.


日本生態学会