| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-063 (Poster presentation)

カラフトマスの二次性徴形質にみられた河川間変異

*佐橋玄記(北大環境), 芳山拓(北大水産)

同じ種であっても、形態は生息環境に応じて微妙に異なることがある。これは、生物が生存、繁殖する上で多面的な機能を果たす形態に対し、複数のトレードオフ関係が作用した結果であると予測される。

サケ科魚類のカラフトマスは顕著な二次性徴を示す。雄は上顎が曲がり体高が増し、雌は多くの卵を保持した結果として腹部が膨張する。日本系のカラフトマスは、異なる河川を繁殖場とするが、約1年半に及ぶ北太平洋での索餌回遊ルートはほぼ共通であり、繁殖期の直前に各河川に遡上する。そのため、もし二次性徴形質に河川間変異が観察されたならば、それは各河川の繁殖環境に適応した結果である、と予測される。例えば、二次性徴の発達した個体を選択的に狙う捕食者が多い、あるいは河川遡上のコストの高い繁殖場では二次性徴の発達を抑制した方が適応的であるだろう。一方、同性内競争の激しい繁殖場ではより二次性徴を発達させた方が適応的であると考えられる。本研究では、北海道と青森の16河川の繁殖場に遡上したカラフトマスの二次性徴形質の河川間変異を調べ、多様性の形成要因を検討した。

カラフトマスの二次性徴形質は、体サイズの影響を考慮した上でも河川間で異なった。二次性徴形質は海からの距離と有意な2次の負の非線形関係を示した。つまり,海から一定の距離にある繁殖場において二次性徴が最も発達し、海から近すぎても遠すぎても二次性徴はあまり発達しない傾向が認められた。雌については繁殖密度とも正の相関関係が認められた。また、繁殖場が海から近い河川ほど、ヒグマの出現頻度は高かった。これらの結果は、繁殖場が海から近い河川ではヒグマの選択的捕食リスクの増加、繁殖場が海から遠い河川では回遊コストの増加に伴って二次性徴の発達を抑制するように適応した結果であると考えられた。また、雌では同性内競争が強まるほど、二次性徴の発達が促進されることも示唆された。


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