| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-095 (Poster presentation)

餌資源の対照的な二地域におけるシカ個体群の歯の摩滅の比較

*田熊彩乃(農工大・農), 瀬戸隆之(農工大・農), 杉田あき(農工大・農), 丸山哲也(栃木県・林セ),梶光一(農工大・農)

シカの密度増加による過採食は嗜好性植物を減少・消失し、栄養状態を悪化させるが、これは歯の摩滅をも増加させると言われている。反芻動物における過度な歯の摩滅は採食行動に影響し、結果として生存率を低下させる。一方で餌の質の低い生息地では切歯の摩滅が速い事が報告されている。しかし、先行研究のほとんどは個体群間での比較であり、個体群内での密度の変化や、同じ密度でも環境によってその効果が異なることを考慮していない。そのため、本研究では長期のデータを用いて、餌の対照的な2つの個体群の切歯の摩滅を比べるとともに、それぞれの個体群で、密度低下に伴って歯の摩滅がどの程度変化したかを2つの時期に分けて比較した。一方の調査地、奥日光の森林には、林床にシカにとって重要なササが生育する。もう一方の調査地足尾では、ササよりもたんぱく質の割合の低い、ススキなど草原性のグラミノイドが多くを占める。両調査地は1995年より継続して個体数調整がなされているが、密度は当時と比べて減少している。本研究では1990年から2011年に生まれた個体の切歯を用いて、切歯の歯冠高を計測し、比較した。その結果、餌が低質な足尾では、高質な奥日光と比べて歯の摩滅が速かった。また、どちらの個体群でも密度低下に伴い、オスの歯の摩滅速度は減少した。密度の影響がオスのみで見られた理由は、オスはメスより低質で大量の餌を食べるために影響が表れやすかったためと考えられた。これらのことから餌の質や密度は歯の摩滅に影響する事が示された。同時に、歯の摩滅は個体群内でも変動する事が判明し、歯の摩滅は個体群の餌環境を反映するモニタリング指標となることが示唆された。


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