| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-097 (Poster presentation)

琵琶湖のカブトミジンコはなぜ眠らなくなったのか?-実験からの検証-

*槻木玲美(愛媛大・CMES),占部城太郎(東北大・生命)

動物プランクトンのDaphniaは通常、単為生殖で増殖するが、餌不足などプランクトン生活に不適な条件下では、有性生殖により休眠卵を産み出し、厳しい時期を乗り越える。休眠卵の形成はDaphniaの個体群維持に重要な役割を果たすが、ノニルフェノールのような化学物質が休眠卵の形成を阻害する可能性が報告されている。一方、最近、休眠卵の産卵率は同種内のクローン間でも異なることが指摘されている。もしプランクトン生活に不敵な季節がなくなれば、孵化に時間のかかる休眠卵を作り出すクローンは、速やかに増殖できる急発卵を多数産み出すクローンと比べ適応度が下がり、駆逐されるかもしれない。

既に報告したように、琵琶湖では優占するカブトミジンコ(Daphnia galeata)は1980年代以降、現存量はそれまでと変わらず高く維持しているにも関わらず、休眠卵は殆ど産まなくなっている。そこで本研究では、琵琶湖のカブトミジンコはなぜ休眠卵を作らないのか、次の二つの可能性について湖水を用いた室内実験により検証を行った。一つ目はプランクトン生活に不敵な季節がなくなり、休眠卵を作りやすい個体は駆逐され作らなくなっている、二つ目は湖水中に含まれる化学物質により、休眠卵の形成が阻害されている可能性である。春(3月)と秋(11月)に採取した二つのクローン株を用いて休眠卵誘発実験を行ったところ、いずれの株においてもカブトミジンコは50%以上の高い頻度で休眠卵を形成した。このことは、現存するカブトミジンコは休眠卵の形成を誘発する条件が揃えば、休眠卵を産み出す高い能力を有していることを示す。但し、化学物質の蓄積が懸念されている湖底泥を用いた培養条件下では、休眠卵の産卵率が5%未満の低い頻度を示すクローン株があり、化学物質による阻害の可能性は完全には棄却できないことも示唆された。


日本生態学会