| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-119 (Poster presentation)

南アルプス南部の高標高域を利用するニホンジカの季節移動要因

*大場孝裕,大橋正孝,山田晋也,片井祐介,石川圭介,伊藤 愛(静岡県農技研・森林研セ)

南アルプスでは、高山・亜高山帯へニホンジカが侵出し、高茎草原やシラビソ林等の植物群落へ過度の影響を及ぼしている。高山植物保護のため、不明な点の多い南アルプス高山・亜高山帯を利用しているニホンジカの行動を明らかにし、捕獲等の対策を講じていく必要がある。

2010~2012年の6、9、10月に、南アルプス南部、聖岳南側にある聖平(標高約2,300m)周辺で、麻酔銃とくくりわなを用いてニホンジカを生体捕獲し、メス3頭、オス2頭にGPS首輪とVHF首輪を装着して追跡した。また、2011年11月と2012年10月に、南アルプス南部、椹島北側の特種東海製紙株式会社の社有林管理道路(千枚管理道路)周辺(標高1,500~1,700m)で、麻酔銃を用いてメス2頭、オス4頭のニホンジカを生体捕獲し、GPS首輪とVHF首輪を装着した。

聖平で生体捕獲したメス3頭は、11月に聖平を離れ、いずれも聖平から南西方向に13km以上移動し、南アルプス深南部で越冬した。この移動のタイミングは、繁殖(交尾)期の終了によるものと推測された。聖平へは5月下旬から6月の間に戻ってきた。聖平の日平均気温が5℃を超え、植物が生育を開始したタイミングで戻ってきたと考えられた。また、聖平に移動してきた後に出産している可能性がある。

千枚管理道路で生体捕獲した個体のうち、夏季の位置データが回収できた4頭は、標高2,300mより上まで移動していたが、聖平利用個体と比較すると5月半ば頃から徐々に利用標高を上げていく傾向があった。また、オスもメスも10月前半に低標高域へ移動した。聖平利用個体と異なり、繁殖(交尾)場所への移動のためと推測された。一部の個体は、繁殖(交尾)期終了後、さらに標高の低い場所へ移動した。


日本生態学会