| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-144 (Poster presentation)

牛用寄生虫駆除薬が糞虫相に与える影響:糞虫の種構成が異なる2地域について

吉田信代(畜産草地研)

動物の糞を餌とする食糞性コガネムシ類(以下、糞虫と略す)は、放牧地の牛糞分解に大きな役割を担っており、植生維持にも影響を与えている。ところが放牧牛へ投与されるイベルメクチンを主成分とした内部外部寄生虫駆除薬(以下、駆虫薬と略す)は、糞とともに体外に排泄されるため、駆虫薬が混入した牛糞は糞虫の生存率を低下させ、ひいては牛糞分解も抑制する危険が指摘されている。これまでに、駆虫薬に対する感受性は種によって異なり、駆虫薬投与牛の糞を与えて飼育した幼虫の生存率はカドマルエンマコガネのでは対照区より低くなるが、オオマグソコガネでは対照区と有意に違わないことを示した。ここではさらに糞虫群集に対する駆虫薬の影響を明らかにするため、オオマグソコガネのみ分布する地域、およびオオマグソコガネとカドマルエンマコガネが分布する地域で、放牧牛に駆虫薬を投与する草地と投与しない草地に、牛糞を誘引源とするピットフォールトラップを放牧期間中に毎月1回設置し、糞虫の個体数を調査した。その結果、オオマグソコガネのみ分布する地域では駆虫薬投与の有無に関わらず優占種はオオマグソコガネだったが、2種が分布する地域では優占種は駆虫薬投与有りの草地はオオマグソコガネ、駆虫薬投与なしの草地はカドマルエンマコガネだった。両種の産卵時期は一部重複しており、さらに飼育実験によって産卵におよぼす自種密度・他種密度の影響を調べたところ、オオマグソコガネの方が他種の影響を受けやすかった。これらより駆虫薬投与草地の糞虫群集は、種間相互作用をおよぼしあっている優占2種の駆虫薬に対する感受性の違いにより、構造が大きく変わったのではないかと推測した。


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