| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-165 (Poster presentation)

シマフクロウとタンチョウにおける主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の多様性評価

*甲山哲生(北大・院理), 秋山拓哉(北大・院理), 表渓太(北大・院理), 西田千鶴子(北大・院理), 竹中健(シマフクロウ環境研究会), 大沼学(国環研), 百瀬邦和(タンチョウ保護連盟), 増田隆一(北大・院理)

主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) 遺伝子は脊椎動物の免疫反応に重要な役割を担い、極めて高い多型性を示す。MHCクラスI、II分子は、病原体由来のペプチドと結合し抗原提示を行う機能を持つが、これらの分子が高い多型性を持つことで、様々な病原体への対応を可能としていると考えられている。そのため、集団内のMHCの多様性の低下は、病原体に対する抵抗性を低下させ、集団の絶滅リスクを高めると考えられる。

絶滅危惧種であるシマフクロウとタンチョウは、保護活動により個体数は現在増加傾向にあるが、人間活動による生息地の消失や分断化、また乱獲によって過去に大幅な個体数の減少を経験しており、遺伝的多様性の低下が危惧されている。本研究では、両種の北海道集団におけるMHCの多様性を明らかにすることを目的として集団遺伝学的解析を行った。

シマフクロウ201個体について、次世代シーケンサー (Roche GS FLX+) を用いたMHCクラスII遺伝子座の網羅的なジェノタイピングを行い、また、タンチョウ20個体について、クローニング・サンガーシーケンスによるMHCクラスII遺伝子座の塩基配列決定を行った。その結果、両種共に北海道集団全体におけるMHCの多様性は極めて低いことが明らかとなった。また、シマフクロウにおいては地域集団間でMHCの多様性に顕著な差が見られた。

シマフクロウおよびタンチョウにおいては、過去の大幅な個体数減少にともなう強い遺伝的浮動の影響により集団内のMHCの多様性が低下したと考えられる。今後の保全活動において、MHCの多様性を考慮に入れた人為的移入・分散計画を進めていくことが重要であろう。


日本生態学会