| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-036 (Poster presentation)

小笠原・乾性低木林樹種の乾燥ストレス耐性と枝構造の関係 -C利用戦略のトレードオフ-

*奥野匡哉(京大・生態研),才木真太朗(京大・生態研),吉村謙一(森林総研・関西支所),中野隆志(山梨県・環境研),矢崎健一(森林総研),石田厚(京大・生態研)

高い材密度をもつ種は、通水の失敗(=キャビテーション)を起こしにくいため、乾燥ストレス耐性が高いといわれている。しかし劇的な乾燥下において、高い材密度をもつ種が低い材密度をもつ種よりもキャビテーションを起こしやく、枝をよく落とすというパラドックスが近年報告されている。材密度は必ずしも乾燥ストレス耐性とは関係しない可能性があり、乾燥期に枝葉を落とす種はキャビテーション抵抗性が低い可能性がある。本研究では、植物の水利用、炭素利用、枝構造までを乾燥ストレス耐性の視点で繋ぎ合わせた。

強い乾燥がかかる小笠原の乾性低木林に優占する5樹種において、乾燥ストレス耐性を調べた結果、材密度は乾燥ストレス耐性とは関係せず、1) 乾燥期でも枝葉を維持する種は、キャビテーション抵抗性が高く、さらにキャビテーションを起こした道管に糖を柔細胞から投入し、その浸透圧により道管に水を再充填できる(=リフィリング)ことが明らかになった。2) 枝葉を落とす種は、キャビテーション抵抗性が低く、リフィリングできないため、乾燥期に枝葉を落し、湿潤期に再萌芽することが明らかになった。また、枝葉を維持する種に比べてシュートのセグメント数や葉数、当年枝数が少なく、枯れセグメント数が多いことが明らかになった。これらは乾燥耐性の生理的なメカニズムに沿った枝構造を示している。枝葉を維持する種は通水の失敗を起こさないよう獲得した炭素を、水を再充填するための糖や強い道管構造の構築に投資する一方、枝葉を落とす種は萌芽に炭素を投資するため、二つの戦略間で炭素利用のトレードオフが発生していると考えられる。この炭素利用戦略の違いは、乾燥地での枝寿命や枝の枯死率に大きく影響しているだろう。


日本生態学会