| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-082 (Poster presentation)

クヌギの葉に丸く穴をあけて食べるムササビの採食様式

*伊藤睦実,林文男(首都大・生命),Nickie Seto,Brianna Rico(アリゾナ大),田村典子(森林総研・多摩)

東京西部の山林に生息するムササビ(Petaurista leucogenys)は、クヌギの葉をよく食べ、その食痕には様々な形があることが知られている。そこで、クヌギの葉の食べ方は地域ごとに違うのか、どうして同じ葉でも一部しか食べないのか、食べ方に季節変化はあるのかを調べた。八王子市および町田市周辺の山林14か所において、食痕のついたクヌギの葉を採集した。それらのクヌギの葉について、食痕のタイプ分け、タイプごとの頻度、葉の各部の長さの測定を行った。また、葉の苦み成分であり、動物に消化不良などの悪影響を及ぼすフェノール類に着目し、葉に含まれる総フェノール濃度を測定し、それがムササビの葉食部位の選択性に影響しているかを検討した。結果として、ムササビの食痕には、先端部だけを食べる、中央部に穴をあけて食べる、あるいは基部だけを食べるという3つのタイプがあり、それぞれの頻度は調査した14か所において異なっていた(地域性があった)。 総フェノール濃度は、季節にかかわらず、葉の先端部、中央部、基部で差はなかったが、葉の外縁部の方が内側より高くなっていた。ムササビの3つのタイプの食痕は、共通して、外縁部を避けるような食べ方とみなすことができ、彼らは苦みを避けるような食べ方をしているのではないかと考えられた。葉の中央部に穴あけて食べるタイプはその典型であるが、この食べ方では、1回以上葉を折って食べなければならず、高度な学習が関与している可能性がある。つまり、クヌギの葉の食べ方の地域性には、学習という文化的側面が寄与しているかも知れない。


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