| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB3-078 (Poster presentation)

トンボ類を用いた湿地の環境指標の作成 ~石狩川下流域のトンボ相の多様性変動を通して~

綿路昌史(札幌旭丘高校教諭),*内田葉子(北海道大学理学部)

2009年から2013年までの5年間、石狩川下流域の湿地でトンボ相の多様性調査を行った。調査地域は埋め立てられた土地に自然再生事業によって沼地を造成した環境で、多様な生物相が回復しつつある場所である。しかし、湿地の自然再生に伴うモニタリングは行われているが、実際どの程度回復されたのか、今後どのように変化していくのか、湿地環境の予測評価の手法が確立されていなかった。私たちはその手法にトンボが利用できるのではないかと考え、新たな環境指標の作成を目指した。

5月から9月に月3回、トンボの抽出調査を行い、5年間で28種、13,000個体を超えるトンボ類を採集した。また、コドラート法を用いてトンボが生息する水域の植生を調査した。これらの調査の結果、人工的な湿地環境が経年変化する過程で、造成後の10年間で種数・個体数は安定な値に収束するが、多様性は揺らぎを持ちながら変動するということが明らかになった。5年間分の調査データを元にして、指標の作成を行った。扱いやすく且つ正確な指標となるように、調査回数を年3回と定めた。採集したトンボの優占種数と個体数から、その環境の多様性と環境収容力の度合いを推測できると考え、それらを測定する散布図を作成した。また、トンボの産卵場所や習性から植生などの湿地環境の様子が判断できると考え、環境の状態を可視化できるレーダーチャートを作成した。

これらの指標により、年3回のトンボ調査でその湿地環境の生物多様性や環境収容力、環境の状態などが推測でき、生態学の知識のない人でも容易に湿地環境を診断することができる。また、それぞれのトンボの特性さえ分かれば他地域のトンボ相でも指標の利用が可能だと考えられる。今後、この研究を継続すると共に、より利用しやすい指標の応用・普及を行っていきたい。


日本生態学会