| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB3-095 (Poster presentation)

環境研究の社会化──生態学のかかわり

多田満(国立環境研)

環境研究は「自然と社会と生命のかかわりの理解に基づいた」研究(真理の探究)であるとともに、「よき生(よく生きる)」(西田幾多郎)の探究にあるといえる。それはまた、地域社会における生態学をはじめとする科学、ならびに人文・社会学(広い意味での文学)による「社会に向き合う」研究である。一方の「社会化」は社会学における中心概念であるが、この場合は、環境研究の専門家(研究者)が、地域社会や住民からの信頼と負託に応えること、すなわち住民らとの対話と協働のプロセスにより、他者とともに既成概念にとらわれない新たな考え方(真理や価値観)を生み出そうとする姿勢である。

そもそも生態学は、自然を「森=迷宮」的イメージで見る立場(F・ベーコン)の科学であり、それは数々の経験と個々の事物という森である。一方の『ウォールデン──森の生活』で知られるH・D・ソローの豊富な自然経験は、科学の言葉では、語ろうにも語れない。「科学は部分を説明するに過ぎず、経験はすべてを受け入れている」からである。

そこでまず、地域社会における「よき生」─環境(自然)─社会─経済のつながりのなかで、環境研究の社会化のための生態学のかかわりについて、地域生態学と生態地域主義の中心概念である「場所(=空間+経験)の感覚」(身体的、社会的、歴史的に構築された、人と場所との間の関係性を表す用語)から考察をおこなった。さらに、ある地域(場所)において、専門家である科学(生態学)と文学(ネイチャーライティング)の研究者とアーティスト(環境や自然と地域社会の人びとの関係がどうあるべきかを追求してきた芸術家)、ならびに住民、NPO、行政などとの協働のあり方とともに、「内発的発展論」(鶴見和子)を通して「住民から市民(主体的個人)へ」の検討をおこなった。


日本生態学会