| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB3-118 (Poster presentation)

洞窟生態系のタイプ分けと発達過程

新部一太郎(島根大・生物資源)

地下の空間(ここでは土壌層よりも深い領域を指す)は一般的に、暗黒、恒温、多湿、貧栄養などの環境要素で特徴付けられ、そこに成立する動物群集は種数も個体数もともに極めて小さい。また著者らの調査では、地下の微生物相は土壌層に見られる種が含まれているものの極少数の種に寡占されていた。こうした結果を踏まえてこれまでに著者らは地表と地下との間には生態系の連続性を妨げる何らかの境界があるだろうことを示唆してきたが、さらに調査を進める中で地下生態系の成立と発達過程について情報が蓄積できたため仮説を紹介したい。

地下の空間は、例えば石灰洞のように、地史的な時間の中で形成、拡大、崩壊を繰り返すがそれに伴って生態系も変化していくだろう。変化の方向性を見つけるための一つの手法は様々な地下空間の生態系を比較することである。著者らはまず地上との物理的な連絡性が異なる4タイプの洞窟における群集調査及び安定同位体比による食物網解析のデータを比較した。その結果、どの洞窟においても大きく2つの栄養源があり、それぞれに依存的な種と双方を利用できる種が見られることがわかった。一方の栄養源は地表や土壌の生態系と比べて炭素・窒素同位体比がともに低い値を示し、仮に真洞窟性栄養源と呼ぶ。もう一方は地表性の栄養源と大差ない値を示すため洞口性栄養源と呼ぶ。これらのデータに群集の情報を加味すると、地下生態系では主に物理的な要素(地表との連絡性)によって上記2つの栄養源のバランスが決定し、それによって物質循環が規定され、群集が変化していると考えられた。

通常の経過では時間とともに洞口性栄養源の割合が増加し、それがある閾値を超えたところで地表の生態系とボーダーレスになると考えられる。具体的な閾値やその規定要因については今後の課題である。


日本生態学会