| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PC2-015 (Poster presentation)

北海道知床半島におけるヒグマによる河畔林へのサケ類由来栄養塩の輸送

*越野陽介(北大院・水),野別貴博(公財・知床財団),工藤秀明,桜井泰憲(北大院・水),帰山雅秀(北大・国際本部)

遡河性サケ属魚類(サケ類)は,産卵遡上を介して母川へ大量の海由来の栄養塩(MDN)や有機物を輸送し,陸域生態系の生産力の維持や向上に寄与している。陸上へのMDN輸送においては,ヒグマによるサケ類運搬行動が重要な経路であると考えられている。ヒグマが陸上へ輸送するMDNを定量的に評価する上で,ヒグマによるサケ類の利用度や運搬の知見が必要であるが,それらに関する知見は我が国ではきわめて少ない。本発表は,ヒグマが陸上へのMDN輸送に果たす役割を明らかにすることを目的とする。

2006—2009年秋季に,北海道東部知床半島ルシャ川において,陸上へ運搬されたカラフトマス死骸数の計数,ヒグマによるカラフトマスの運搬距離と利用部位を目視観察した。ヒグマ体毛の安定同位体比(δ13C・δ15N)から,ヒグマの摂餌パターンおよびカラフトマス利用率の推定を行った。

ルシャ川河畔では,ヒグマにより捕食されたカラフトマスは約500—1000個体と推定された。ヒグマ体毛の毛根部のδ13Cおよびδ15Nは,サケ類の同値と近似している場合が多かった。混合モデルによるヒグマのカラフトマス利用率は50 %以上と推定された。これらのことから,秋季のルシャ川流域に分布するヒグマにとって,カラフトマスは重要な餌資源であると考えられる。ヒグマはカラフトマスを河川から10 mの範囲内に運搬し,その魚体の半分以上を捕食する傾向を示した。ルシャ川の河畔で採集されたヤナギ類のδ15Nは,ヒグマが分布していない河川よりも高かった。以上のことから,ヒグマは河畔林へのMDN運搬者として機能していると判断される。


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