| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PC2-028 (Poster presentation)

Sr安定同位体比からみたハイマツの葉面からの栄養塩吸収

上原 佳敏(九大・生物資源科学府・演習林),久米 篤(九大・農・演習林),中野孝教(総合地球環境学研究所)

日本の本州中部山岳地域は,標高2500mを超える山々が連なり,山頂部では年平均気温が低く,積雪に覆われる期間も長いため,バイオマスの分解速度が低く,有機物中の栄養塩類も可溶化せず,物質循環が抑制されていると推測される。そのような環境では,湿性及び乾性沈着からの栄養塩供給は重要であり,それらの評価を行うことによって高山生態系における物質循環の実態を把握できると考えられる。Sr安定同位体は,生態学や水文学においてCa等のミネラル成分の非常に良いトレーサーとして知られている。本研究では山岳生態系における物質循環過程を解明するために,降水,林内雨,霧水,雪,渓流水及びハイマツとその周辺に生育している高山植物を採取しSr安定同位体比を測定した。

中部山岳国立公園の立山・浄土平(標高2839m)において,ハイマツ林冠の物質動態を測定した結果,ハイマツは針葉表面に付着した無機窒素成分の70%を吸収していた。一方,多量のK+イオンやMg2+イオンが針葉表面から溶脱しており,特にカリウム溶脱量は,針葉の濡れ時間やSO42-イオン供給に比例していた。Ca2+イオンも溶脱していたが,年によっては吸収傾向も確認された。

ハイマツ林内雨の87Sr/86Srは,大気沈着の値や海塩の値(0.7090)と非常に近い値となったが,ハイマツ樹体中の値は葉と枝で0.7099,リターで0.7097となり,黄砂の値(0.7103)に近いものとなった。周囲の高山植物の値はおおよそ大気沈着の値に近く,浄土平のハイマツ群落や周囲の高山植物の栄養塩供給には,海塩や黄砂などの大気沈着が重要であることを示唆した。立山では,大気からのイオン供給が物質循環の主体をなしており,基岩の影響は非常に小さいこと,また,黄砂が重要な陽イオン供給源になっている可能性を示唆した。


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