| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T07-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

農耕地の土壌線虫群集の環境応答

岡田浩明

「線虫」と聞いて「寄生虫」を浮かべる人が多いだろう。しかし、土壌中で自由生活する微小な種(自活線虫)も多く、「土壌のプランクトン」のようである。自活線虫は熱帯から極地に至るあらゆる環境の陸域土壌や水域底生に高密度で生息している。土壌の環境指標というと、日本ではササラダニを使った青木氏の仕事が有名だが、欧米では自活線虫を利用し、土壌環境の汚染度、攪乱程度などを評価するための研究が行われてきた。ダニやトビムシも、1)移動能力が乏しく、その多少が生息環境を直接反映する、2)土壌から簡単に分離できる 、3)高密度で生息し少量の土壌サンプルでも分析できるなど環境指標として優れた特徴を持つ。自活線虫ではそれらに加え、1)分類群ごとに細菌食、カビ食、植物根食(植物寄生)、肉食性などに分けられ(食性群)、その違いが口腔の形で判別可能、2)食性群が土壌生態系の様々な栄養段階に分布するなどの長所を持つ。各機能群の割合を基に、土壌食物網の発達程度を推定するStructure Index, 肥沃度を推定するEnrichment Indexなどが提案されている。こうした分析は農耕地や自然環境の土壌生態系のモニタリングなどに役立つと思われる。また、線虫群集の分析は従来個体ごとの形態同定に基づいていたが、近年ではDNA情報を利用した群集の定性的、定量的分析も行われつつある。本講演では、形態同定により線虫群集を分析して土壌環境評価を行った事例とともに、PCR-DGGE(ポリメラーゼ連鎖反応-変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)などDNAベースの技術を線虫群集分析に用いた試みを紹介する。なお農環研では、土壌の線虫、細菌、糸状菌について、PCR-DGGEによる分析手法をマニュアル化して公開するとともに、分析結果のデータベース化を進めている(eDNAプロジェクト)。


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