| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T10-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

その無駄はどこに消える:オスの存在が群集構造に与える影響

川津一隆(龍谷大)

生物群集の多数派を占める有性生物では,オスは繁殖に対して遺伝的にしか寄与しないことが多い.それでは,余った資源をオスは何に利用しているのだろうか.進化・行動生態学者たちは,この繁殖における投資の性差に着目し,オスの無駄こそが性選択や性的対立を生み出し,その結果として自然界でみられる多様で複雑なオス・メス間の違いを進化させることを明らかにしてきた.その一方で,群集生態学ではオスの動態を無視して考えることが多いため,依然としてこれらの性差が注目を浴びることは少ない.しかしながら,繁殖への投資や資源利用行動といった個体レベルのオス・メス間の違いを群集スケールで考えた場合,増殖率への貢献度や種間相互作用強度といった食物網のエネルギーフローに関わるパラメータに性差をもたらすことが容易に予想される.したがって,このような群集レベルの性差=性構造を取り入れた生物群集は,従来の無性的な群集観に基づくものとは異なる動態や構造をみせるかもしれない.

そこで,私は以上の性的な群集観にもとづき,増殖率,種内競争,捕食-被食関係への貢献度における性差が食物網の安定性に与える影響について理論的な検討を行った.その結果から,1)一般的な「個体群増殖には寄与しないが個体間相互作用には関与する」オスの存在は食物網の安定性を高める,2)ボトムアップ効果よりもトップダウン効果における性構造の方が群集の安定性に果たす影響が強い,ということが示唆された.本講演では,この理論研究の結果を紹介することで,生物群集において「オスの無駄」が果たす役割についての考察を行う.


日本生態学会