| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T15-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

個体・生態系レベルでの水・炭素の流れの評価手法

松本一穂(琉大・農)

植物内および植生-大気間でどれくらいの量の水や炭素が流れているのかについては、これまで様々な評価手法によるアプローチがなされてきた。道管を流れる樹液流速の計測は、そこから個体レベルの蒸散量を推定することも可能であることから、植物の水分生理に留まらず、水文学等の研究分野においても広く用いられてきた。一方、師管流については、植物体内の炭素輸送経路ではあるものの、そこから個体レベルの炭素交換量を求めることは困難であったため、物質循環の分野ではこれまであまり注目されてこなかった。しかし、植物が吸収した炭素をどこにどれだけ配分して利用しているのか、すなわち炭素配分が生態系の物質循環を大きく特徴づけることが近年広く認識されるようになり、その解明のためのツールとして、今後師管流計測の重要性はさらに高まっていくものと思われる。生態系スケールでの水・炭素の流れの評価手法としては、大きく分けて「積み上げ型」と「全体型」の方法がある。積み上げ型は生態系の個々のコンポーネントの交換量を生態系レベルにスケールアップする方法、全体型は微気象学的手法(渦相関法)により、植生面上で直接全体の交換量を計測する方法である。積み上げ型は労力がかかる上、スケールアップの際に誤差も生じることから、とくに90年代以降、渦相関法による観測が世界中の植生において進められた。しかし、全体型の方法は生態系内のプロセスが不明であるため、メタ解析や将来予測は限定的なものにならざるを得ない。そのため、量とメカニズムの双方を解明のためには、結局のところスケールの異なるこれら2つの手法を同時に実施する必要があると考えられる。本発表では、これら個体・生態系レベルでの水・炭素の流れの評価手法について、具体的な実施事例をいくつか紹介する中で、それぞれの手法の有効性や課題について概観する。


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