| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T16-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

対馬での静かなる革命

木村幹子(対馬市)

朝鮮半島と九州との間に飛び石的に存在する対馬は、大陸の影響を色濃く受けた極めて独特な生態系を有している。古来より、文化や技術の玄関口として、また国防の要所として、重要な役割を果たしてきた。九割が山林という地形的な特徴から、対馬の人々は、炭焼き、木庭作(山の斜面を利用した循環型の焼畑)、野焼き(茅場をつくる技術)などで山を巧みに利用しながら、小さな谷間に水田を作って生活してきた。こうした営みにより、雑木林、半自然草地、湿地など多様な環境が創出される。ツシマヤマネコ(絶滅危惧IA類)も、里山を象徴する生き物である。一方で、対馬特有の「天道信仰」は、御神体となる山への人々の立ち入りを禁じ、結果として、龍良山(国の天然記念物)に代表されるように、原生的な照葉樹林がまとまって存在する、貴重な場所を残している。このように、対馬の生態系は、人間と自然との共生の歴史を色濃く反映している。

しかし、この貴重な生態系にも危機が訪れている。急速な過疎高齢化による離農が里山の劣化を促進し、原生林では悪質な生物採取が後を絶たない。原生的な自然と、周辺の里山環境、そして、自然を持続可能な形で利用してきた人々の文化や知恵を後世に伝えていくための効果的な手段を、早急に検討する必要があった。

ユネスコエコパークの枠組みは、まさにこの目的に合致するものだった。対馬の極めてユニークな生態系やそれにまつわる文化を、エコツーリズムやグリーンツーリズムという形で活かすことで、産業に結び付けたいという狙いもある。また、故郷への誇りを育て、持続可能な社会へ対する価値観を醸成するため、教育の充実を図ることも出来るだろう。

対馬のエコパーク登録へ向けた動きは、まだ始まったばかりだが、同様の悩みを抱える自治体と共に、自然と共生した地域づくりへの糸口を見つけてゆきたい。


日本生態学会