| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T17-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

群体性サンゴに見られる生活史形質の可塑性とその種間および種内変異:研究ツールとしてのサンゴの“移植”

酒井一彦(琉大熱生研)

群体性サンゴはモジュールであるポリプの分化がほとんどなく、群体内および群体外の環境条件に応じてポリプが形態の変化なしに、無性生殖(群体の成長)や有性生殖などの生活史形質を可塑的に変えることが可能である。例えば、単体性サンゴで確認された性転換は、形態変化を伴わないサンゴの生活史形質可塑性である。さらに群体の形態も、モジュールの配列によって“積み木”的に可塑性を持つことが可能である。このように潜在的に表現型可塑性を大きく持つ群体性サンゴでは、群体を分割することで遺伝的に同一な群体を複数作ることができる。つまり群体性サンゴでは、表現型可塑性の研究において常に問題となる個体の遺伝的な差異を、遺伝的に同一な群体を異なる環境に“移植”する、あるいはサイズなどの状態を変えて同じ環境に“移植”することによって、比較的簡単に回避することができる。

この発表では、これまでに群体サンゴを対象とし、“移植”を手法として行われてきた研究を紹介する。紹介する内容は、

(1)種内(同一個体群内)に、異なる生活史形質の発現につながる遺伝的差異が存在する。

(2)種内(同一個体群内)に、水温などの異なる環境条件に対する可塑性に、遺伝的な差異が存在する。

(3)種内で、個体群ごとの環境に局所的に適応した可能性も報告されている。

(4)近縁な種間で、表現型可塑性の程度に差異が存在する。

などである。

また、サンゴ礁への人為的環境変化が地球および地域規模で増大している現在において、それら環境変化に対して適応的変化が起こる可能性を表現型の可塑性も含めて考察し、“移植”を研究ツールとして、群体性サンゴの適応的変化をecogenomics的に研究することを提案したい。


日本生態学会