| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T17-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

エボシガイ類における性表現の可塑性と矮雄の進化

山口幸(神奈川大)

エボシガイ類は、浅海から深海に広く分布する有柄フジツボ類である。岩や流木、他の生物などに定着して生活し、多様な性表現をもっている。フジツボ類の性は基本的に同時的雌雄同体であるが、いくつかの分類群で、雌雄同体の体につく小さな雄(矮雄)が見られる。矮雄は雌や雌雄同体の大きさの2分の1よりも小さいサイズの個体であると定義されており、雌雄同体になる可能性はとても小さいか、あるいは全くない。

矮雄の形態は、雌雄同体に比べて退化・特殊化が進んでいることもあるが、オノガタウスエボシやメナガオサガニハサミエボシといった種では、雌雄同体と形態的にほとんど変わらない矮雄が知られている。これらの矮雄は、他個体上に付着した雌雄同体が、可塑的に性表現と生活史を変化させた結果として、矮雄になったのではないか。そこで、自然界では矮雄の知られていないソリエラエボシにおいて、人工的に小型個体を他個体に付着させる実験をおこなったところ、雄機能がより発達する傾向が見られた。その一方で、ヒメエボシでは、自然界で他個体に付着する個体が知られているにも関わらず、それらの雄機能は通常の雌雄同体と同程度にしか発達せず、人工的に付着させても性機能は変化しなかった。

これらの知見から、ヒメエボシのように他個体上に付着するが性表現が可塑的でない種から、ソリエラエボシのように可塑的に雄機能を発達させる状態を経由して、オノガタウスエボシなどに見られる矮雄が進化したというシナリオを描くことができる。性表現の進化的移行において、表現型可塑性は重要な役割を果たしたかもしれない。


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