| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T23-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

生態学者と農林水産業

栗原健夫(西海区水研)

生態学のテーマは、個体数の変動機構、外来種の拡散、人為的な生物進化など、農林水産業と深く関わるものが多い。そのため、農林水産業において、生態学者の活躍できる場は多いように見える。が、そのような場は、以下のようなノウハウを駆使した生態学者だけに与えられるのかもしれない。

【ノウハウ1 目標設定】 ある場合には、農林水産業の現場の要求に合わせて、目標を立てねばならない。その際には、その要求が目まぐるしく変わることや(例:年々かわる作物病因への対策)、立場によって異なること(例:養殖業者と漁獲漁業者の海面利用法の違い)に気を払わねばならない。別の場合には、現場が要求の声をまだ上げていない/上げたがらない問題をあえて取り上げ、目標にくみこむ必要もある(例:漁獲による生物の不都合な進化)。

【ノウハウ2 実行可能な方法の開発】 目標に道をつける段階では、低い開発・運用コストで、高い利益を得る方法を探すべきだろう(例:既往知見だけで可能な外来種侵入リスクの評価)。とくに、メカニズム解明にコストがかかりすぎる場合には、あえて、メカニズム不明の、しかし頑強な相関関係を利用する手が有効だろう(例:因果関係の不明な環境要因-害虫発生量の相関に基づく害虫発生予報)。ただし、高いコストに見合うだけの利益をもたらしそうなメカニズムについては、裏技を使ってでも、解明を目指すべきかもしれない。

【ノウハウ3 方法の伝達】 方法についてのアイディアは、農林水産業者や行政関係者から信頼を得てこそ、受け入れられやすい(例:農家とのつきあいを通しての外来種対策の伝授)。また、相手に合わせた伝達手段を介した方が、伝わりやすい(例:論文、報告書、会議、実演会などの使い分け)。

以上のノウハウを活用して、楽しく粘り強く研究し続ける方法について模索する。


日本生態学会