| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第61回全国大会(2014年3月,広島) 講演要旨


日本生態学会宮地賞受賞記念講演 1

植物形質の多様性の原理に迫る

小野田雄介(京都大学大学院農学研究科)

地球上には、様々な環境に適応し、多様な形質をもつ植物が存在する。植物の形質の違いにはコストとベネフィットが関わっていると考えられ、したがって、植物の形質の多様性には何らかのルールがあるはずである。そのような謂わば「植物の多様性原理」を解明することが私の研究の主要なテーマである。私は、生理的基盤や物理法則の視点から、植物の環境応答や種間変異について、研究を行ってきた。今回は、(1)葉の光合成能力の多様性、(2)葉の力学的特性、(3)植物の高さの多様性、についての研究をご紹介する。

光合成は植物の代表的な機能であるが、その能力は種や生育条件によって大きく異なる。光合成能力を低く抑えている植物がいるのはなぜだろうか?卒業研究で始めたイタドリを使った実験では、光合成能力が低い葉は、光合成タンパク質量は少ないが、細胞壁量や細胞壁に含まれるN量は多いことを発見した。つまり光合成と細胞壁に分配する資源量にはトレードオフがあった。このような関係は、その後、多様な種間でも見られることが示唆されており、光合成能力と耐久性を同時に上げることができない1つの根拠となっている。

 光合成能力の多様性において細胞壁の量の違いが重要であることが分かったが、細胞壁の生態学的意義はほとんど研究されていなかった。細胞壁は、葉を頑強にさせ、葉寿命に貢献しているはずである。そこで、葉の力学的特性を評価する実験装置を組み立て、葉の力学に関する研究を展開した。葉の強度のコスト・ベネフィットの概念の提案や、葉の表皮組織の剛さの重要性、葉の力学的特性の世界的なパターンの評価などの研究を行い、葉の細胞壁の生態学的意義を明らかにした。

 植物の高さは種や成長段階によって大きく異なる。背の高い植物は光を先取りし、低い植物の成長を抑制する。にもかかわらず、自然界には多様な高さの植物が共存している。どうしてだろうか?この疑問について、森林における共存樹種の光を巡る競争の視点から取り組んでいる。暖温帯常緑樹林で行った研究では、背の高い樹木は、光獲得には秀でているが、光の利用効率は劣っていることが分かった。つまり光獲得効率と光利用効率のトレードオフにより、多様な高さの植物の共存が可能になっていることを示唆している。

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