| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第61回全国大会(2014年3月,広島) 講演要旨


日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞記念講演 2

シジュウカラの音声コミュニケーションにみる対捕食者適応

鈴木俊貴(総研大・先導科学)

 長年,動物の発する鳴き声は,ヒトの言語とは異なり,恐怖や喜びなど個体の情動しか伝えないと考えられてきた。しかし,近年の研究により,動物の鳴き声がこれまで考えられてきた以上に複雑な情報を伝えている証拠が集まってきた。たとえば,一部の鳥類や霊長類の発する鳴き声には,個体の内的変化のみならず,捕食者の種類や食物の種類など,外的な対象を指示するものが含まれる。そのような高度な情報伝達は,どのような自然淘汰のプロセスを経て進化してきたのだろうか?

 私は,この疑問に答えるために,シジュウカラ科鳥類を対象に野外研究をおこなってきた。具体的には,彼らの鳴き声がどれほど複雑な情報を伝え,信号の発信者と受信者にどのような適応度上の利益をもたらすのかを野外実験によって明らかにすることを試みてきた。

 シジュウカラの親鳥は,繁殖期,巣に近づくヒナの捕食者をみつけると,激しく警戒の鳴き声を発する。私は,シジュウカラが捕食者の種類に応じて異なる警戒声を使い分けることを発見した。カラスに対してはチカチカと聞こえる警戒声を,ヘビに対してはジャージャーと聞こえる警戒声を発する。

 驚くことに,親鳥の発する警戒声は,生まれて間もないヒナに対して捕食者の種類を伝えていた。ヒナたちは,カラスへの警戒声を聞くと巣(樹洞)のなかでうずくまり,ヘビへの警戒声には巣を飛び出すことで反応する。これらの反応は,嘴で巣の入り口からヒナを襲うカラス,巣に侵入してくるヘビからの捕食を回避する上で適応的である。

 さらに,親鳥の警戒声は,共にヒナを守るつがい相手にも捕食者の種類を伝え,危険に応じた行動を促すことも明らかになった。つがい相手はカラスへの警戒声を聞くと水平方向に首を振り,ヘビへの警戒声を聞くと地面を凝視する。これらの反応は,飛んで巣に近づくカラス,地面から巣に接近するヘビを特定する上で効果的であり,つがいが協力して捕食者を追い払う上で適応的である。

 一連の研究は,鳥類が警戒声を使い分けることで,ヒナとつがい相手に同時に捕食者の種類を伝え,効果的にヒナを守ることを明らかにした国内外で初めての成果である。捕食行動の異なる捕食者種の共存が,シジュウカラの音声コミュニケーションを複雑に進化させる淘汰圧になったと考えられる。現在,地域間比較や系統種間比較を用いて,この複雑な情報伝達の進化要因を明らかにする試みをおこなっている。

日本生態学会