| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) A2-29 (Oral presentation)

カヤネズミの生息地でのオギ原復元の試み-桂川河川改修工事における自然保護団体と行政との協働実践ー

*畠佐代子(カヤネット), 八木義博(乙訓の自然を守る会)

淀川水系桂川は京都府を流れる一級河川であり、下流域は京都府準絶滅危惧種のカヤネズミMicromys minutusの貴重な生息地となっている。本種はオギ等のイネ科高茎草本を主な営巣場所とするが、2013年にオギ群落が分布する本種の生息地において、河道掘削工事が行われることになった。

そこで、2005年から当地でカヤネズミの分布調査を行っている乙訓の自然を守る会と、全国カヤネズミ・ネットワーク(カヤネット)および国土交通省淀川河川事務所が協働し、本種の生息地の復元を目的としたオギの移植と、本種の生息に配慮した工事方法を検討した。

工事区画の上流側の草地をカヤネズミの避難場所に位置付け、工事区画のカヤネズミを避難区画に誘導するために、2013年11月から2014年3月に、工事区画の下流側から100mごとに2週間間隔で除草し、次いで掘削した。オギが優占する区画の表土は保管し、切り下げた移植区画(約2.5ha)にオギの根茎を含んだ表土を重機で撒いた。工事終了後の2014年4月から11月に、調査地内の営巣状況を2週に1回、植生変化を月1回調べた。

避難区画では6月9日に巣を初認し、11月までに50巣を確認した。移植区画では4月1日にオギの発芽を確認し、オギの草丈の平均が1mを超えた7月3日に巣を初認した。8月に台風で調査地一帯が水没したが、移植したオギは流失せず、11月までに87巣を確認した。移植区画の下流側(約1ha)の植生は、工事実施以前はセイタカアワダチソウ、クズ、ノイバラ等が繁茂していたが、7月にはオギの被度が60%を超え、避難区画のオギの被度とほぼ等しくなった。対象動物の生態や生息地の状況をよく知る自然保護団体と、河川管理者である行政機関の協働により、大規模な工事に際して、現状に即した保全対策をとることができた。


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