| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) A2-33 (Oral presentation)

コミカンソウ科における雄花食性タマバエによる送粉

*川北篤,望月昂(京大生態研),加藤真(京大人間・環境)

タマバエ科は多くの種が植物のさまざまな部位に虫こぶ形成する植物寄生性昆虫であるが、花に寄生する一部の種は寄主植物の有効な送粉者となっていることが、アンボレラ科、シキミ科、モニミア科といった基部被子植物や、クワ科、アスパラガス科などで知られている。コミカンソウ科コミカンソウ連は世界の熱帯域に約1200種が存在し、そのうち約500種が、幼虫期に種子を食べる種特異的なハナホソガ属のガに送粉されている。ハナホソガ媒の起源を明らかにすべく、コミカンソウ連全体における送粉様式の多様性を調査していたところ、複数の種群で雄花寄生性のタマバエ科昆虫による送粉が見つかった。タマバエのメスは雄花のつぼみに産卵するが、産卵に適したつぼみを求めて枝の上を歩き回る際に、すでに開花している雄花の葯や雌花の柱頭に触れる。タマバエに産卵されたつぼみでは虫こぶが誘導され、その中でタマバエの幼虫が育つ。ミトコンドリアのCOI遺伝子を用いてタマバエの種を識別したところ、ほとんどの場合において、異なる種の植物はそれぞれ異なる種のタマバエに送粉されていることが分かった。コミカンソウ連の分子系統解析から、コミカンソウ連では雌花食者であるハナホソガによる送粉が少なくとも5回、雄花食者であるタマバエによる送粉が4回進化したと推測された。花組織を報酬とする高いコストをともなう送粉様式がコミカンソウ連で繰り返し進化したという事実は、ハナホソガやタマバエの送粉効率が、食害による植物の適応度の低下を補って余りあるほど高いことを意味しているのだろう。


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