| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) E2-28 (Oral presentation)

実証研究のためのモデル選択規準:自然の構造を理解する方法

箱山 洋(水研センター/東京海洋大)

自然の構造の科学的証拠を得るためのモデル選択の規準を論じる。複雑な自然のシステムに関する科学的証拠を得るための一つの考え方として、概念的には次のようなスキームが考えられる:(1) 自然=真のモデル(確率分布)が存在すると考える、(2) 真のモデルの構造についての仮説に基づいた複数の確率モデルを構築し、野外(もしくは実験)データに当てはめる。(3) 真のモデルの構造と確率モデルの構造の近さを何らかの基準で計り、モデル間で比較する。(4) その構造に関する基準の近さが、真のモデルの構造に関する科学的証拠と考える。真のモデルと確率モデルの確率分布の乖離(カルバック・ライブラー不一致)の期待値の推定量であるAIC(Akaike's `A' information criterion)は本来は予測を目的とするが、このようなスキームでの科学的証拠としても用いることができるという考え方がある。しかしながら、サンプルサイズが小さい場合、AICは真のモデルの構造から遠いモデルを選ぶ傾向があり、科学的証拠としては弱点がある。一方、ある確率モデルで不一致が最小となる場合(最善のパラメータを与えた場合)の不一致を「近似による不一致」と言うが、近似による不一致はサンプルサイズによらない真の分布と近似分布の乖離であることから、その推定量を科学的証拠のための規準として提案する。近似による不一致の推定量の一つにLinhart--Zucchini Criterion(LZC)があるが、その推定量はAICの式中の2ppに変更したものとなる(pはパラメータ数)。講演では、LZCを用いた仮説検定の枠組みを説明し、LZCの改善すべき二つの点として、サンプルサイズが小さいときのバイアスとサンプルサイズが大きい場合のモデル選択の一致性の問題を説明する。


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