| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) G1-17 (Oral presentation)

日本近海に生息するマダラの遺伝的分化と環境応答

*須田 亜弥子, 大野 ゆかり, 長太 伸章, 佐藤 光彦(東北大・生命), 成松 庸二(水総研セ東北水), 河田 雅圭(東北大・生命)

生物はさまざまな環境に対し適応しており、その適応形質は主に遺伝子によって決定されている。そのため、環境適応に関わる遺伝子を特定することは、遺伝子の機能や機構を明らかにするばかりではなく、環境変動に対する生物の適応を予測することにも大きく貢献する。水産資源であるマダラは北太平洋沿岸に広く生息する冷水性の底生魚であり、日本近海が分布の南限となる。日本近海は暖流と寒流の行き交う多様な環境が存在するため、環境に対する適応的な要因を解明するためにもこの海域のマダラは適した種である。マイクロサテライトを用いた解析では、日本海側の鳥取沖とその他の北方海域とで遺伝的分化が生じていることが明らかとなっている。これは、日本の南西から鳥取沖に達する暖流の影響によって環境差が生じることで遺伝子流動が妨げられ、それぞれ異なる環境に適応したため地域分化が維持されている可能性がある。そこで、本研究では、漁獲量と環境データを用いて集団間の環境応答性の差異を明らかにするとともに、RAD-seqによる大量の遺伝子マーカーを用いた詳細な集団構造の評価と環境に応じて遺伝子頻度に変化がみられる局所適応遺伝子の検出を目的とした。一般化加法モデルを用いた漁獲量と環境との関係性からは、海域間での生息環境の差異や水温への応答性の差異が認められた。19集団234個体から得られた最大1万のRADマーカーを用いた解析からはマイクロサテライトの結果同様に南北の分化が観察された。今後は、南北の環境差異に対して遺伝子頻度に変化がみられる座位の探索を試みるとともに、局所適応に寄与する遺伝子を特定する必要がある。


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