| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) G1-19 (Oral presentation)

異時的に生じる複数の表現型にはたらく異なる自然選択

植松圭吾,沓掛磨也子,深津武馬(産総研・生物プロセス)

多くの生物がその生活環の中で複数の表現型を示す。その例として、性的多型・カースト多型・季節多型などが挙げられる。これらは単一のゲノムから遺伝子発現の調節によってもたらされるため、複数の表現型を維持することが個々の最適化を妨げる要因になり得る。同時期に生じる性的多型・カースト多型などにおいては拘束から生じる表現型間の対立に焦点が主に当てられている。しかし一方で、ある表現型が別の文脈でも適応的である場合、その表現型を別の世代でも使いまわすことにより、新たな表現型を促進的に獲得する可能性もある。

アブラムシは季節の変化に伴い宿主植物の転換をおこなう。1次・2次宿主上での表現型はしばしば別種として記載されるほど異なる。社会性を持つ一部の種(社会性アブラムシ)ではこれに加え、1次宿主・2次宿主それぞれで、利他的な兵隊幼虫を表現型可塑性により産出する。つまり、①異なる宿主上で異時的に生じる表現型多型、②兵隊・繁殖カーストという同時におこる表現型多型、が単一のゲノムから生じている。社会性アブラムシの1次宿主世代はゴール(虫こぶ)という閉鎖的環境に生息するのに対し、2次宿主世代は草本上にコロニーを形成する。よって両宿主世代にはたらく選択圧は異なると予想される。2種類の兵隊は独立に進化したとされているが、両者の遺伝的背景も独立か、それでも共通の発生プログラムを利用しているかは未解明である。

社会性アブラムシの異なる宿主世代で生じる兵隊階級ならびに各モルフの外部形態を計測し、その結果から分子系統樹上で種間比較を行った。その結果、1次宿主・2次宿主の兵隊の防衛形質の間に相関進化のパターンが検出された。結果をもとに、選択圧の異なる環境で似た機能を持つ兵隊が進化し、維持される過程について考察する。


日本生態学会