| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) G1-24 (Oral presentation)

キクイムシと菌類の共生における垂直伝播の進化に関する数理モデル

*内之宮光紀(九大・シス生), 巌佐庸(九大・理)

いくつかの共生系では共生者は親から子へと受け継がれ、これは垂直伝播と呼ばれている。垂直伝播を成功させるには、自由生活とのトレードオフや共生者を運ぶための構造を作るコストが必要になるかもしれない。

この研究では、キクイムシと菌類の共生系の数理モデルを考える。キクイムシの中でも養菌性と呼ばれるものは栄養の乏しい辺材に穴を掘り産卵する。成虫は共生菌を植え付け、幼虫はその菌を食べることで成長する。成虫のキクイムシはマイカンギアと呼ばれる菌の胞子を運ぶための構造をもっている。共生菌は大きい分生子、粘着性の胞子などの特徴を持っている。特に、粘着性の胞子はキクイムシによる菌の垂直伝播に関わっていると考えられる。しかし、それらの菌の祖先は風によって胞子を分散させる木材腐朽菌の仲間であったと考えられている。胞子の粘着性は、風によって運ばれるのを妨げ、結果として粘着性の胞子と通常の胞子の間にはトレードオフが生じるかもしれない。

私たちは垂直伝播の成功に関わるキクイムシによる菌の運搬能力と菌の胞子の粘着性に注目し、キクイムシと菌類の双方の形質によって達成される垂直伝播の進化について議論する。もし、キクイムシが菌から十分多くの栄養を得ることができ、キクイムシと関係する菌がより効率よく木材に定着することができれば、双方が垂直伝播形質を進化させる。加えて、菌による栄養の供給量の進化を考える。キクイムシに対して栄養を提供することで生産できる胞子が減ったとしても、栄養供給によってキクイムシが十分に生存率を改善することができる場合には菌はキクイムシに対してより多くの栄養を提供するように進化する。


日本生態学会