| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) J2-29 (Oral presentation)

北海道十勝地方における日本産カンテツFasciola sp.およびその中間宿主モノアラガイ科貝類の分布と分子系統地理学的解析

*尾針 由真,押田 龍夫(帯畜大野生動物学)

日本において家畜での肝蛭症は減少したが,北海道の野生のエゾシカ(以下シカ)で日本産カンテツ(以下カンテツ)の感染が報告されており,近年のシカ個体数の急増に伴い分布拡大が懸念される.カンテツの生息には中間宿主であるモノアラガイ科貝類(以下貝類)が必要であり,その分布はカンテツの分布に影響を与える重要な要因であると考えられるが,北海道における現況は不明である.そこで本研究では北海道十勝地方におけるカンテツの生活環成立および分布拡大の可能性を検証することを第一の目的とし,シカ糞中の虫卵の検出試験,さらに貝類の分布とそれらへのカンテツの寄生を調べた.同時に,貝類とカンテツの分布状況が形成された過程を推測することを第二の目的として分子系統地理学的解析行なった.

十勝地方に設定した9ヶ所の調査区において,2012年にシカの糞を全ての調査区から,また2013年には8ヶ所の調査区から貝類を採集することができた.シカ糞を用いた虫卵検査の結果,5ヶ所の調査区においてカンテツが検出されたが,何れの調査区の貝類からもカンテツは検出されなかった.また,貝類個体群の分子系統地理学的解析から個体群サイズの急増および分布の急拡大が示された.十勝地方において中間宿主および終宿主の分布域が広く重複していることから,カンテツの生活環成立の条件が整っている可能性が示唆されたが,貝類での寄生が確認されなかったため,生活環成立を明確にすることはできなかった.しかし,近年のシカの個体数増加に加え,本研究で貝類の急増および分布の急拡大が示されたことから,カンテツの分布域は急速に広がるかもしれない.今後,カンテツ,シカおよび貝類の個体群動態を総合的考慮する必要があるだろう.


日本生態学会