| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) J2-30 (Oral presentation)

屋久島の吸血性ヤマビルの宿主選択

*半谷吾郎(京大・霊長研),中野隆文(京大・理)

屋久島で、吸血性のヤマビル(Haemadipsa zeylanica)の宿主選択と空間分布について調査を行った。2012年8月に屋久島で採取したヤマビル48匹を解剖して消化管を取り出して、そこからDNAを抽出した。哺乳類のバーコード配列である16S rRNAをSCPH02500/SCPL02981プライマ(Matsui et al., Mammal Study 2007)で増幅して解読した。40サンプルで解読に成功し、すべてニホンジカがもっとも近い配列だった。カメラトラップで算出した相対生息数に比例すると仮定して調査地内に生息する哺乳類4種が宿主になるサンプル数の期待値を算出すると、ニホンジカ30.9、ニホンザル7.4、ネズミ1.6、イタチ0.07だった。これは40すべてニホンジカだったという実際の結果と有意に異なっており(χ^2=11.9, p= 0.0079)、ヒルは選択的にニホンジカに寄生していると結論できた。一方、2010年から2014年まで毎年夏に、定点調査でサル・シカ・ヒルの空間分布を調べたところ、シカの分布がヒルの分布に影響を及ぼしている年があったが、その影響は正の場合も負の場合もあった。サルの分布はヒルの分布に関係していなかった。哺乳類はヒルが分泌する唾液成分に対して抗体を産生するが、この抗体を持った血液を吸血するとヒルは斃死するという報告がある(吉葉・石井、千葉大学海洋センター年報 2012)。そのため、宿主とヒルの空間分布の関係が、年によって変動していくのかもしれない。サルは樹上性であるのに加え、手が器用で効率的に毛づくろいを行えるため、ヒルを有効に除去できるのだろう。


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