| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) J2-31 (Oral presentation)

堅果の豊凶がアカネズミの成長に与える影響

島田卓哉(森林総研・東北)

【背景】森林性の野ネズミにとって,堅果(コナラ属樹木の種子)の賞味期限はいつまでなのだろうか? 従来は堅果を利用できるのは秋から冬に限定されていると見なされ,冬を越した堅果の資源的価値はほとんど考慮されてこなかった.しかし,演者らの先行研究により,堅果豊作翌年には,アカネズミは冬越し後の春にも秋と同程度に堅果を摂取していることが示唆されている.そこで,春期の堅果利用がアカネズミの個体群動態に与える影響を解明するために,標識再捕獲法によってアカネズミの成長曲線を推定し,その性質を豊作翌年と凶作翌年とで比較した.【方法】標識再捕獲調査は,岩手大学滝沢演習林(岩手県滝沢市)のコナラ二次林において行った.2010年から2014年の4月から11月まで少なくとも月1回の捕獲調査を行い,捕獲されたアカネズミ個体の性,齢クラス,繁殖状態,および体重を記録した後,標識して放逐した.春生まれの雌個体のうち,初捕獲日の齢が4週齢以下の個体の捕獲履歴を用いて,成長曲線(ゴンペルツの成長式)を推定し,成長率,漸近体重,変曲点を算出した.なお,上記の齢の推定は,飼育下で得られた成長曲線に基づいて行った(Oh & Mori 1998).【結果と考察】コナラ堅果豊作翌春生まれのコホートは,凶作翌春生まれのコホートに比べ高い成長率を示したが,漸近体重と変曲点は低い値となった.すなわち,豊作翌春に生まれた雌アカネズミは初期成長は早いものの,早期に成長をスローダウンし,結果的に低体重で成熟することが示唆された.こうした成長の特徴によって,アカネズミは,堅果豊作翌年に急速に個体数を増加させることが可能になっていると考えられる.


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