| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) K1-24 (Oral presentation)

カシノナガキクイムシに対するエタノールの誘引性

*田下直人(京大院農),伊東康人(兵庫農技総セ),山崎理正(京大院農)

一般にキクイムシ類は樹木からの揮発性物質、特に衰弱に伴い発生量が増加するエタノールを手掛かりとして寄主木の探索を行っていることが知られているが、カシノナガキクイムシのエタノールに対する反応性は低いとされてきた。しかし、エタノールが直接の誘引剤としてだけでなく、樹木からの他の揮発性物質の協力剤としても作用している事例がある。そこで本研究では、野外と室内での実験により、協力効果を考慮した上で本種のエタノールへの反応性を検証した。

2013年7月から8月にかけて、京都市北東部に位置する八丁平において、エタノール浸漬丸太と水浸漬丸太、エタノール付き塩化ビニル製パイプと何も処理を施していない塩化ビニル製パイプの4本を林内7個所に設置した。これらに誘引された本種及び他種キクイムシ類を粘着トラップで捕獲し、その捕獲数にエタノール及び周囲の環境条件が及ぼす影響を一般化線形混合モデル(GLMM)を用いて解析し、本種と他種キクイムシ類で比較した。また、2014年7月から8月にかけて、Y字管オルファクトメーターを用いて室内で選択実験を行った。誘引物には水浸ミズナラ枝、50%エタノール浸ミズナラ枝、50%エタノール、合成集合フェロモン剤を用いた。誘引物と空容器の2択で実験を行い、GLMMを用いて誘引物の影響を評価した。

野外実験から、エタノールに対する本種の反応は示されず、丸太とエタノールを組み合わせた際には、エタノールの負の影響が示された。これは、同所的に生息する他種キクイムシ類とは全く異なる反応であった。また室内実験から、本種は逆にエタノールを忌避することが示された。本種は、同属他種養菌性キクイムシと比べて、エタノール発生量がまだ比較的少ない段階の木を寄主木としており、その生活様式を反映した結果と思われた。


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