| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) K2-29 (Oral presentation)

シロアリのニンフ・ワーカー分化に関するエピジェネティックな制御のモデル

*北出 理(茨城大・理), 林 良信(北大・地球環境)

ヤマトシロアリは二分岐型の発生経路を持ち、幼虫は3齢で将来有翅生殖虫になる「ニンフ」、もしくは無翅の「ワーカー」のいずれかのカストに分化する。ニンフ・ワーカーの両経路に進んだ個体から分化した生殖虫を使った交配実験の結果から、Hayashi et al.(2007)は、個体が進む発生経路にX染色体上の1遺伝子座の遺伝子型が強い効果を与えるというメンデル遺伝モデルを提案した。このモデルでは有翅生殖虫ペア(一次王・女王)が交配して生んだ子は、ワーカーに分化する遺伝子型をもつことになる。

一方、野外コロニーのマイクロサテライト遺伝子座を用いた生態遺伝学的調査からは、本種のコロニーで女王が単為生殖で♀ニンフを産み、それらがニンフ型補充女王として一次王と交配するという繁殖様式をとることが示された(Matsuura et al., 2009)。この交配によりワーカーと共にニンフも生産されていた。ところがこの結果は先の遺伝モデルと矛盾する。ニンフ型補充女王と一次王の交配は、遺伝的には一次女王と一次王との交配と等価であり、子はワーカーになる遺伝子型を持つはずだからである。

この矛盾を解消するために、Hayashiらのメンデル遺伝モデルの遺伝子座における2つの対立遺伝子を、遺伝子座のメチル化等による活性・非活性化状態の違いに置き換えたモデルを考案した。コロニーあるいは生殖虫が成熟すると、生殖虫は自分の状態と一部異なる活性化状態の遺伝子を子に伝えるようになる、と仮定することで、ニンフ・ワーカー分化に関する遺伝モデルと、野外の調査結果を矛盾なく説明できる。さらにこの遺伝的機構がコロニーや個体群のニンフ・有翅生殖虫の性比を制御する手段として機能している可能性について議論する。


日本生態学会