| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-033 (Poster presentation)

異なる積雪環境が高木性樹木サワグルミの樹形と生活史に与える影響

*中野陽介(新潟大・自然研,只見町ブナセンター),崎尾均(新潟大・農)

落葉高木のサワグルミは日本列島の冷温帯に分布し、少雪地域から多雪地域にまで生育している。多雪環境は雪圧によって高木性樹木の正常な生育を困難にするが、サワグルミがそのような環境下でどのような生存戦略をとって生育しているかを明らかにするために、本研究では、異なる積雪環境に生育するサワグルミのサイズ、樹形、萌芽性、種子生産量を比較した。

埼玉県秩父山地、新潟県佐渡島、福島県只見(只見沢、赤倉沢)の渓畔林に調査区を設置し、樹木サイズや形態、調査および種子生産量を調査した。各調査地の林齢、最大積雪深はそれぞれ、120年:30cm、70年:140cm、50年:200cm、50年:480cmである。

赤倉沢のサワグルミの平均樹高は4.3mで、ほかの調査地(平均25〜35m)より有意に低かった。幹長に対する樹高の比率は赤倉沢では平均36%で、ほかの調査地(平均95〜100%)より有意に小さかった。株あたりの萌芽幹数は、赤倉沢では平均40本であるのに対し、ほかの調査地では平均3〜5本であった。萌芽幹を含めた地際直径階分布は、秩父山地、佐渡島では断続的なL字型、只見沢では連続的なL字型、赤倉沢では逆J字型を示した。さらに、種子生産量は赤倉沢で、秩父山地、佐渡島、只見沢に比べ極端に少なかった(平均8個/m2)。

以上の結果から、多雪環境下に生育するサワグルミは、雪圧よって垂直成長が抑制され、低木化し、萌芽幹生産によるクローナル成長で個体維持を図っていることが示唆された。一方で、種子生産量が減少していたことから、クローナル成長と種子生産はトレードオフの関係にあることが推察された。


日本生態学会