| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-080 (Poster presentation)

湿潤熱帯林におけるフタバガキ科樹木の吸水深度と開花

*川原和眞, 中川弥智子(名大・生命農), 松尾奈緒子, 青木万実(三重大・生資), 小杉緑子(京大・農), 酒井章子(京大・生態研)

東南アジアの低地熱帯雨林に生育する樹木の多くは一斉開花と呼ばれる、短期間の強い乾燥に起因して開花するフェノロジー特性を有している。このため、樹木の乾燥に対する応答特性は種の存続にかかわる重要な形質の一つと考えられる。本研究では樹木が利用する土壌水の深さに着目して、吸水深度が浅い樹種ほど乾燥に対して敏感に反応し、開花頻度が高くなるという作業仮説を立て、水の酸素安定同位体比を用いてフタバガキ科樹木の吸水深度を推定し、吸水深度と開花との関連性を検証した。

対象とした55種(273個体)の開花頻度は平均して9.64から0.86回/10年と樹種によって大きく異なり、種間差が認められた。土壌水(深さ10cm~100cmまで)と道管水の酸素安定同位体比の時間的変動パターンに同調性は認められなかったものの、期間中はほぼ土壌表層から深層にかけて安定同位体比が低下するプロファイルとなった。このため、吸水深度推定に用いられるモデル式の適用が可能となり、IsoSourceモデル推定の結果に基づいて、対象種6種の吸水深度の順位づけを行ったところ、D. lanceolataD. aromaticaの吸水深度が比較的浅く、D. globosusS. smithianaの吸水深度が比較的深いことが分かった。また、吸水深度の順位と開花頻度との間に有意な相関がみられる場合があった。

吸水深度の推定精度を向上させる必要はあるが、吸水深度が浅いほど開花頻度が高いとする作業仮説を概ね支持する傾向がみられた。


日本生態学会