| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-083 (Poster presentation)

ハイマツの光合成収率と伸長成長の環境応答

*雨谷教弘, 工藤岳(北大院・環境)

日本の高山帯で大きなバイオマスを占めるハイマツの分布は、積雪環境との関連性が強い。気候変動によって温度環境や積雪量が変化すると、ハイマツの成長や分布に影響すると考えられる。北海道大雪山国立公園では、近年、気温の上昇と雪解け時期の早期化が進行している。著者らによる航空写真の解析から、過去32年間でハイマツの植被面積が約14%増大している事が確認された。本州の山岳域では、夏期の気温とハイマツの成長に正の相関が報告されている。北海道の6地域9山で比較した研究でも、過去の伸長成長と気温に相関があることが分かった。本研究は、生育期の温度と日射量、ならびに生育地の標高と雪解け時期の変動がハイマツの生理活性と伸長成長に与える影響を調べた。

ハイマツの枝に「遮光処理」、「温暖処理」、「部分摘葉処理」の実験処理を行い、コントロールの枝と共に、伸長成長と光合成収率を生育シーズンを通して測定した。各処理を行った枝に小型温度ロガーを設置し、温暖効果の違いを測定した。さらに、標高と雪解け環境の異なる複数のハイマツ個体群で光合成収率の測定を行った。データ解析は、いずれも一般化線形混合モデルにより行った。

処理実験の解析から、遮光処理と温暖処理では共に光阻害の影響が小さくなっていた。一方、伸長成長に関しては温暖処理でのみ伸長量が増大し、遮光処理や摘葉処理は伸長生長に影響しなかった。光合成収率の個体群間比較では、標高と雪解け時期に交互作用が検出され、標高が高く、雪解けが遅いほど光阻害の影響を受けていた。このことから、ハイマツの生理活性は光と温度の双方の影響を受け、雪解けが遅い環境では、雪解け後に光阻害の影響を受けやすいことが示された。以上の応答は、近年におけるハイマツの分布拡大を良く説明している。


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