| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-173 (Poster presentation)

ホストの適応進化プロセスにおけるホストゲノム内転移因子の長期進化動態

*樋口拓人,瀧本岳(東邦大・理)

Helianthus属のヒマワリでは雑種種分化により生まれた娘種が親種よりも強い環境ストレスに適応進化している。この娘種では、ホストゲノム内の転移因子のコピー数が親種よりも高い。このことから、転移因子が環境ストレスに対する適応進化に関与している可能性が指摘されている。そこでUngerer and Kawakami(2013)は人為的に形成した雑種に短期の環境ストレスを与える実験を行ったが、環境ストレス下の雑種で転移因子のコピー数の増加を確認することはできなかった。一方、Rouzic et al.(2007)はコンピュータシミュレーションによりホストゲノム内の転移因子コピー数の長期動態に3種のパターン(「平衡」、「サイクル」、「家畜化」)を見出した。しかしRouzic et al.(2007)のモデルはホスト個体群の生息環境が定常状態であると仮定しており、Helianthus属ヒマワリの娘種が経験したと考えられるホスト生息環境の変化を考慮していない。そこで本研究では、Rouzic et al.(2007)のシミュレーションモデルを再構築し、ホスト個体群の生息環境が長期的に悪化するシミュレーションを行った。Rouzic et al.(2007)の「家畜化」では、転移因子のコピー数は初期振動したあと、ホスト適応度に正の影響をもたらす転移因子が初期振動よりも低レベルのコピー数で維持される。本研究では、「家畜化」の起きるパラメータでシミュレーションを開始し、初期振動の途中の世代でホスト個体群を環境ストレスにさらした。その結果、長期のストレス下で初期振動が延長し、転移因子のコピー数が低レベル化しない場合を示せた。よって、Helianthus属ヒマワリの親種では「家畜化」によるコピー数の低レベル化が起きたが、娘種では長期の強い環境ストレスにさらされたために初期振動の延長が起きたと考えられる。


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