| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-176 (Poster presentation)

Sr安定同位体比を用いた魚類の生息地特定手法の開発 ―大槌町淡水型イトヨの例―

*札本果(京大・生態研),申基澈(地球研),中野孝教(地球研),森誠一(岐阜経済大),陀安一郎(京大・生態研)

魚類の生息地や移動履歴を特定する指標として、近年ストロンチウムの同位体比(87Sr/86Sr)が注目されている。この手法は、生物が環境水と同じ87Sr/86Srを示すこと、および淡水の87Sr/86Srが流域の地質環境に応じた固有の値を示すことに基づく。

岩手県大槌町は、淡水型および遡河型のイトヨ(Gasterosteus aculeatus)が生息するとともに、津波被害から出現した自噴水域で新たなイトヨが確認されており、生態学や環境学の観点から学術的意義が高い地域である。本研究では、複数ある淡水型イトヨの生息地間の交流の有無を、イトヨ脊椎骨の87Sr/86Srを用いて検討した。その結果を以下に示す。

1. イトヨと環境水の間には87Sr/86Srの強い相関が認められた。このことは、イトヨ体内のSrが基本的に環境水に由来することを示す。

2. イトヨの87Sr/86Srは大きく3地域に区分できた。このことは、イトヨの生活範囲が各地域内に止まっており、地域間での交流がないことを示す。

3. 各地点において、イトヨと環境水の87Sr/86Srの間には分析誤差をこえる変化が認められた。このことは、各地点における環境水の87Sr/86Srの時間的変化や、各水域内におけるイトヨの生活範囲の地理的広がりの可能性を示唆する。

4. 沿岸域自噴水域では、イトヨは環境水に比べて有意に高い87Sr/86Srを示した。この地域の一部は満潮時に海水が浸入し自噴水と海水が混合する水環境であったためと考えられる。一方で、イトヨと環境水の87Sr/86Srの間には正の相関が認められたことは、津波後に新規に出現したイトヨの生活範囲が、スポット状の水たまり内であることを示唆する。


日本生態学会