| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-196 (Poster presentation)

窒素状態の異なる近接する落葉広葉樹林での土壌中の硝酸態窒素安定同位体比の比較

*牧野奏佳香(京大院・農),福島慶太郎(首都大・都市環境),川上智規(富山県立大・工),徳地直子(京大・フィールド研)

窒素(N)負荷が進行するにつれて、土壌中の硝化作用の活性化、土壌の酸性化、渓流水からの硝酸流出の増加、森林衰退などが起こることが概念的に示されている。本研究の対象とする呉羽丘陵(KR)と射水丘陵(IM)は丘陵間の距離が約5kmと近接しており、N降下量は10kgN/ha/yr以上でほぼ等しいにもかかわらず、KR内の集水域でのみN降下量以上のN流出量が報告され、KRでのみ窒素飽和現象が指摘されている。そこで、両丘陵におけるN動態の違いを明らかにする目的で、土壌(10-100cm)と渓流水の硝酸態窒素の酸素安定同位体比(d18ONO3)と窒素安定同位体比(d15NNO3)、植物や土壌(0-100cm)の窒素安定同位体比(d15N)を調査した。土壌抽出液のd18ONO3はIMでのみ多くの土壌で見られる値より高く、d15NNO3は表層付近ではKRの方が低い傾向があった。表層土壌の硝化速度がIMに比べてKRの方が大きいので、IMの方が大気の寄与が大きく、KRでは表層土壌の硝化によってd15NNO3が低下したものと考えられる。渓流水のd18ONO3には丘陵間で大きな違いはないが、d15NNO3はKRの方が低い傾向があった。いずれの丘陵でも大気の寄与は渓流に到達した際にはほぼなくなった。また、生葉も土壌もd15NはKRの方が低かったことから、KRの方が硝化によって生成されたd15NNO3の低い硝酸を植物が吸収する割合が大きく、d15Nの低いリターが土壌に供給されていると考えられる。以上より、降下したNがIMでは土壌中で徐々に取り込まれていくが、KRでは表層の硝化活性が高く、硝酸として植物の吸収などを受け表層土壌-植物間で循環後に流出すると考えられた。


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