| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-004 (Poster presentation)

東シベリア永久凍土域のカラマツ林変動-湿潤枯死からの変化

飯島慈裕(海洋研究開発機構)・小谷亜由美・太田岳史(名古屋大・生命農)・檜山哲哉(名古屋大・水循環センター)

東シベリア・ヤクーツク周辺では、2005~08年の気候湿潤化によって、カラマツ(Larix Cajanderi)からなる北方林の上層木が枯死・衰退する現象が起きた。この地域は連続的永久凍土帯であり、気候湿潤化によって、活動層が深く土壌水分か過剰となる状態が複数年継続しており、この森林荒廃は土壌環境が変わることで起きた「湿潤ストレス」と考えられる。湿潤ストレスの発現から10年近くが経過し、林内・土壌環境が様々に変化している。枯死したカラマツのギャップが点在し、その林床ではカラマツ実生や草本類、低木層を構成するシラカバやヤナギ類が生長するなど、従来のカラマツとコケモモを優占種とした単純な森林構造から新たな遷移過程となる様子が観察された。また、2009、2014年の9月に実施した活動層厚調査から、気候湿潤期間に微地形の谷や平滑面で深くなっていた活動層は10~20cm程度浅くなり凍土が回復していたのに対し、微地形の斜面上部や尾根上の活動層は逆に10~20cm程度深くなり、土壌水分移動による凍土構造の変化が認められた。気象観測タワーでの樹冠上の熱・水・炭素フラックス測定によれば、群落蒸発散量の年々変動は夏季の土壌水分量と線形な関係にあったのが、2007年を境にその関係が低下する方向にシフトし、翌2008年以降には、群落の総一次生産(GPP)の関係も同様にシフトし、水・炭素収支の経年的な影響が明らかとなった。ただし、湿潤ストレスによる森林荒廃の進行の生理的プロセスは依然不明であり、土壌湛水環境の継続に伴う根の呼吸・吸水阻害や、それに伴う葉の生理応答や幹の樹液流変化を同時に明らかにして、枯死に効く直接的要因を捉える必要がある。


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