| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-120 (Poster presentation)

豪雪地の古民家の構成樹種にみる里山利用

*井田秀行(信州大・教), 仲摩裕加(信州大院・理工), 梅干野成央, 土本俊和(信州大・工)

豪雪地の里山利用に関する伝統的知識を把握するため,長野県北部の7集落に建つ計10棟の古民家(築年数100年以上)を対象に,構造材の樹種組成を明らかにした。

民家1棟当たり半数以上の構造材(柱・梁・桁)から採取した木片組織の観察により,3〜8樹種/棟,計15樹種が同定された。全民家の共通種はナラ類(ミズナラないしコナラ)であり,以下3棟以上で,頻度の高い順に,スギ(9棟),ブナ(7棟),ケヤキ・クリ(5棟),アカマツ・オニグルミ(3棟)であった。

特に雪の多い同県北東部の4集落(最大積雪深196〜262cm)に建つ7棟はいずれもブナ,ナラ類,スギの3樹種が共通して構造材の大半を占めた。一方,やや雪が少ない北西部の3集落(最大積雪深56〜125cm)に建つ3棟の樹種組成は多様で,スギ,ナラ類,クリ,アカマツ,ケヤキが民家ごとにそれぞれ多く使用されていた。

以上の樹種はいずれも,現在,当該地域の二次林に一般的に出現する。このため,かつて用材を近くで得ていたとすれば,それぞれの民家が建てられた当時から近年まで周辺の植生は持続的に利用され,同様の樹種組成が維持されていた可能性が高い。

構造材にみられた顕著な地域差はブナ材利用の有無であり,ブナ大径材の使用は長野県北東部特有の建築様式であることが示唆された。また,北東部ではブナ二次林が各民家の周辺100m内に現存する点も,このことを支持する。

耐積雪圧が高く豪雪地で優占林分を形成しやすいブナが,民家の構造材としても雪の荷重に対して高い強度を発揮する可能性は十分にある。特に雪の多い集落ではこのことが自然環境に適応した伝統的知識として定着していたと推察される。以上から,顕著な豪雪環境下においては,ブナ林の成立が骨太な構造をもつ民家の建築様式を発達させ,ひいてはその地での人の定住にも貢献したと考えられる。


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