| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-133 (Poster presentation)

中国山地中部における過去2000年間の植生変化と人為の影響

*佐々木尚子, 池田愛理, 高原 光(京都府大・生命環境), 三好教夫(岡山理大・理)

中国山地は、古代から製鉄をはじめとする人間活動の舞台となってきた。本研究では、中国山地の2つの湿原において堆積物を採取し、花粉および微粒炭分析によって、当地域の植生変化に対する人為の影響を検討した。

岡山県真庭市の天谷湿原(標高600m)では、約1500年前以降の堆積物が得られた。深度56-104cmではスギ花粉が優占し、コナラ亜属やクリ属/シイ属、マツ属などの花粉が多かった。深度56-36cmではマツ属花粉が急増し、イネ科およびヨモギ属花粉が高率で出現した。またソバ属の花粉が検出され、微粒炭量が急増した。深度36-16cmでは、マツ属が高い出現率を示す一方、スギ、コナラ亜属、クリ属/シイ属花粉は減少し、草本花粉も減少した。深度16cm以浅ではスギ花粉の出現率が高くなった。

島根県飯南町の赤名湿地(標高450m)では、約1800年前頃に相当する深度90-110cmでスギが優占し、マツ属、クリ属/シイ属、コナラ亜属などをともなう花粉組成が得られた。また微粒炭も多く検出された。花粉の保存状態の悪い層準を挟んで深度25-60cmでは、マツ属やコナラ亜属が増加し、スギ花粉が減少した。深度25cm以浅では、マツ属花粉が優占した。また、最表層ではスギ花粉が急増した。

両地点の結果から、約2000年前にはスギが優占するものの、落葉ナラ類、クリやアカマツをともなう二次林的な森林が成立していたとみられる。中世頃にはスギが減少し、アカマツやナラ類、陽性草本が増加するなど、さらに開けた植生に移行した。両地点の周辺では、古代〜近世の製鉄遺跡が多数発掘されており、製鉄用の木炭あるいは製鉄に携わる人々の生活燃料として森林が伐採され、明るい環境が広がったことが示唆された。


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