| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-196 (Poster presentation)

イネの摘葉が水田からのメタン放出量の日変化に及ぼす影響

*荒井見和,常田岳志,林健太郎,長谷川利拡(農環研),中村浩史(太陽計器(株))

水稲生育期間中の水田からのメタン(CH4)放出フラックスは,栽培期間を通じた季節変化だけでなく,大きな日変化を示すことが知られている.CH4フラックスの季節変化は,CH4生成の基質となるイネの光合成産物量の影響を受ける.これはイネの生育初期にはイネ根の滲出物が,後期にはイネの枯死根が,CH4生成の重要な基質となるためである.一方で,CH4フラックスの日変化は,地温の変動と関連づけられてきた.ところが最近,「光合成量の日変化がイネ根からの滲出物量の増減を通してCH4の生成・放出の日変化を引き起こす」という説が提案された.本研究では,イネの摘葉によって光合成を大きく低下させることで,光合成産物由来の回転率の速い炭素の供給がCH4フラックスの日変化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.実験では,常時湛水の水田からのCH4フラックスを,自動開閉チャンバーで昼夜にわたり測定した.3つの生育時期(幼穂形成期,出穂開花期,登熟中期)で,摘葉処理を行った区(摘葉区)と摘葉を行わない対照区からのCH4フラックスを測定したところ,日変化は全ての生育時期でイネの摘葉に関係なく生じることが分かった.したがって,生育期間を通して,光合成量の日変化やそれに伴う根からの滲出物の増減は,CH4フラックスの日変化に影響を及ぼす直接的な要因ではないことが明らかになった.ただし,出穂開花期には,摘葉区からのCH4フラックスが日数経過とともに対照区に比べて減少する傾向が見られた.これは,従来の知見通り,光合成産物由来の炭素はCH4生成の基質として重要であり,摘葉処理によってCH4生成への基質供給が減少したためと考えられた.


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